奈良県(鹿県)にいると言われる妖怪一覧

  • イッポンダタラ

山の怪。十津川の西南、和歌山県境の果無山にいる怪。一本足で目が皿のようだという。ふつうは人を害することはないが、ハテノハツカつまり十二月二十日だけが危険だといい、人通りがなかった。はてに人通りがないから果無山という名があるともいう。伯母ヶ峰の大猪が亡霊となって一本足の鬼と化したものともいう。名を熊笹王といい、旅人を捕って食ったが、丹誠上人が地蔵を勧かん請じようしてからは出なくなった。ただし毎年旧十二月二十日だけは鬼の自由にさせたので、この日だけは伯母ヶ峰の厄日として人は入山しないように今も戒めるという。

 

  • オシロイバアサン

道の怪。吉野郡十津川の流域でいう。鏡をジャラジャラひきずってくるという。

 

  • カッパ

水の怪。河童。吉野郡十津川村神納川─牛を引く。牛は八人力、河童は七人力だが、その河童が牛を五百瀬ヶ淵に引き込んだという。また厠から毛の生えた腕を出して尻子玉を抜くといい、腕を引き抜かれ、返してもらう代わりに家伝薬(大和の金草という)を教えた。吉野郡下市町─寺の和尚に手を掴まれ、よく効く傷薬を伝えた。吉野郡川上村枌尾─某家の馬の尻に食いついて離れない河童に胡瓜をやって離れてもらった。それ以来、この家では胡瓜を作らない。吉野川流域では川魚を取りに行く時、胡瓜を忌む。胡瓜の香りに河童が寄ってきて魚が取れぬからという。吉野郡天川村─蜘蛛を使って人を捕ろうとした。逆に引き出され、子供の代まで人を捕らぬと約束した。同村川合─一方の腕が伸びると片方の腕が縮む、へんな男が馬をいじっていた。とがめるとアメノイヨを毎日持ってくると約束するのでゆるしてやった。木鉤を鹿の角に代えるとこなくなった。ゴウラ、ゴウラボシ、ゴウラゴともいう。川のガマ(甌穴)の所にいて、シリノネヲヌクとかシリノネンドヌクという。特に川水が濁っているとゴウラがいるといって子供の水遊びを禁じる。胡瓜を食べて川へ行くなということはこれと関係があるらしい。半夏生に竹やぶに入るとゴウラがいるともいう。

 

  • カワタラ

水の怪。河童。吉野郡迫川村では、夜網に出た男が煙草入れに手拭いを入れておいたため、カワタラに捕られなかった話がある。

 

  • ゲンゴロウギツネ

動物の怪。源五郎狐。大和国宇多。近所の畑仕事を頼まれ、常に二、三人分の仕事をしていた。ある時、飛脚を頼まれ、普通十日かかるところを七日で往復した。しばらく飛脚と農事に従事していたが、飛脚の途中、小夜の中山で犬に殺された。しかし、首にかけていた文箱は、その後、間もなく目的地である大和に届けられたという。

 

  • ジャンジャンビ

火の怪。県内各地に出る。飛ぶときにジャンジャンと音をさせる。二つの火の玉が飛んで、もつれあう。これが出たときは頭を上げて見てはならない。見ると二つの火が会えないからという。

 

  • スナカケババ

道の怪。砂掛け婆。人影寂しい森のかげや神社のかげを通ると、砂をバラバラ振り掛けて驚かす。

 

  • ダル

山の怪。飢えて死んだ者がトリミズ(邪悪な妄念)になっており、人に取り憑く。ダルガツクといい、冷たい汗が出て体が氷のようになり、ちょっと休んでもぐらっと寝てしまう。腹が減っていないときでも憑く。魚を持っているとよけい憑く。この時は掌に「米」という字を指で書いて水を飲めばよい。または飯を一口、口に入れて吐き出し、二口目から飲めば治る。

 

  • ツチンコ

ツチノコのこと。

 

  • ナンドババ

家にいる怪。納戸婆。

 

  • ノヅチ

動物の怪。野槌。丹波市町(天理市)─目が小さく体は俵のように短大。握り飯を与えると転がり来て食うが、すこぶる迂鈍である。ノロともいい、倉にこもるともいう。堅田─長さおよそ五、六寸、太さ面桶くらい。頭と体が直角をなすのであたかも槌のような形をなす。急に落ちてきて人を噛む。険しいホウ(谷穴)に住み、ノーヅチともいう。

 

  • ヒトクサイ

山の怪。人臭い。玉置山でヒトクサイが「人臭い、人臭い」といってやってきたので狼にかくまってもらって、ようやく助かったという。一本足ともいう。

 

  • ベトベトサン

道の怪。宇陀郡でいう。一人で夜道を行くとき、ふと後ろから誰かがつけてくるような足音を覚える。そのときは道の脇に寄って「ベトベトサンおさきへおこし」というと、足音はしなくなるという。

 

  • ホイホイビ

火の怪。天理市柳本町。今にも雨の降りそうな夏の晩、十市城に向かってホイホイホイと二、三度叫ぶと城跡の方から火の玉がものすごく飛んできてジャンジャンとうなりを立てて消え失せる。これを見た者は二、三日熱に浮かされるという。

 

  • ホメク

動物の怪。吉野郡野の迫川村で狐や狸が声を発することをいう。遠くから人を呼ぶときなどにホーと長く高い声を出す。

 

  • ヤマアラシ

音の怪。吉野郡大塔村で、山で木を伐る音をさせる怪をいう。

 

  • ヤマジョロウ

山の怪。山女郎。熊野八木尾谷ネジ滝。乳房を長く垂れ、丈なす黒髪、色はあくまで白かったという。ヤマンバとも伝えられる。またその洞窟の近くに田螺の殻が夥ただしく、生臭かったというから大蛇の怪かともいう。

 

  • ヤマタロ

山の怪。吉野郡では、河童に近い妖怪をガンダロというが、それが山へ行くとヤマタロになるという。